2025-10-08 登記費用の勘定科目ガイド|仕訳例でわかる会社設立・役員変更時の会計処理
会社の登記費用を支払ったとき、どの勘定科目を使えばいいか迷った経験はありませんか?実は「登記費用」という勘定科目は存在しません。登記にかかる費用は性質が異なる複数の費用で構成されているため、その内容に応じて「租税公課」や「支払手数料」といった科目を使い分けるのが会計処理の基本です。
この記事では、中小企業の経理担当者や個人事業主の方が登記費用の会計処理で迷わないよう、具体的なケースごとの勘定科目の選び方や仕訳例をわかりやすく解説します。
目次
登記費用の内訳と勘定科目の基本
会社の登記手続きには、法務局に納める税金だけでなく、手続きを代行する司法書士などの専門家への報酬も含まれます。そのため、会計処理では「登記費用」をひとまとめにせず、その内訳ごとに適切な勘定科目で仕訳を行う必要があります。
登記費用の主な内訳
具体的に、登記費用にはどのようなものが含まれるのでしょうか。
- 登録免許税:国に納める税金です。登記の種類や会社の資本金の額によって金額が定められています。
- 司法書士への報酬:登記手続きの代行を依頼した場合に支払う手数料です。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)の取得費用:手続きや確認のために法務局から書類を取り寄せる際にかかる手数料です。
- その他の実費:会社設立時の定款認証手数料や収入印紙代など、登記の種類によって発生する諸費用です。
例えば、株式会社を設立する場合、登録免許税は最低でも15万円かかります。これは資本金の額に税率をかけて計算しますが、その結果が15万円未満の場合は一律で15万円を納めるルールになっています。
登録免許税の詳しい税額については、国税庁のウェブサイトで確認できます。
このように、登記費用は支払先も目的も一つではありません。税金は「租税公課」、専門家への報酬は「支払手数料」というように、それぞれの性質に合った勘定科目を選ぶことが、正確な経理への第一歩です。
会社設立時の登記費用、どう分ける?「創立費」と「開業費」のキホン
会社を立ち上げる際、登記にかかる費用は単純に「経費」として処理するのではなく、「繰延資産(くりのべしさん)」として扱うことができます。繰延資産として計上すると、支出した年に全額を費用にするのではなく、数年間にわたって少しずつ費用化(償却)することが可能です。
この方法のメリットは、費用を計上するタイミングをある程度コントロールできる点にあります。例えば、設立直後は売上が少なく利益も出ていないため、大きな費用を計上すると赤字が拡大してしまいます。そこで繰延資産を活用し、事業が軌道に乗って利益が出始めたタイミングで費用計上すれば、その年の利益を圧縮し、結果的に節税につなげることができます。
この会社設立時の費用は、会計上、「創立費」と「開業費」の2つに分けて考えます。この区別をしっかりつけることが、正しい会計処理の第一歩です。
創立費とは? - 会社が生まれるまでの準備費用
創立費とは、「会社設立の登記が完了するまでにかかった費用」のことです。会社という法人が誕生するまでの準備コストと考えると分かりやすいでしょう。
具体的には、以下のような費用が創立費にあたります。
- 定款の作成費用:公証役場での認証手数料や、定款に貼る収入印紙代など
- 設立登記の登録免許税:法務局に納める税金
- 専門家への報酬:設立手続きを司法書士や行政書士に依頼した場合の支払い
- その他:発起人が受け取る報酬、設立準備期間中の事務所家賃、金融機関の取扱手数料など
これらはすべて、会社を「設立」するために直接かかった費用として「創立費」にまとめます。
開業費との決定的な違いは「タイミング」
一方の開業費は、「会社の設立後から、本格的に事業を開始するまでにかかった費用」を指します。登記が完了し会社は存在するものの、まだ営業活動を始めていない助走期間にかかった準備費用です。
創立費と開業費の分かれ目は「会社の設立登記日」
この日より前に支払ったものは創立費、この日以降で事業開始前にかかった費用が開業費、とシンプルに整理しましょう。
開業費には、例えば以下のようなものが含まれます。
- オフィスの家賃や水道光熱費
- 従業員への給与
- 広告宣伝費(チラシやウェブサイトの制作費など)
- 開業前の市場調査にかかった費用
- 名刺や事務用品の購入費
事業をスムーズにスタートさせるための準備コストだと捉えてください。
日本の会計実務では、登記費用はその性質によって厳密に分類されます。会社設立時の費用は「創立費」や「開業費」として繰延資産に計上し、数年にわたって償却処理を行いますが、その内訳となる登録免許税は国税であるため「租税公課」、司法書士への報酬は「支払手数料」として処理するのが基本です。このように費用を正しく分類する知識は、正確な会計処理に不可欠です。
創立費と開業費を適切に区分し、繰延資産として管理することは、将来の税務戦略の土台となります。もし「この費用はどちらに該当するのか?」と判断に迷った場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
設立後に発生する登記費用の勘定科目
会社設立後も、役員交代、本店移転、増資など、事業の成長に合わせてさまざまな登記手続きが発生します。その都度かかる登録免許税や司法書士への報酬は、設立時の「創立費」「開業費」とは異なる考え方で会計処理を行うため注意が必要です。
設立後に発生する登記費用は、大きく3つの要素に分けて考えると整理しやすくなります。
登録免許税は「租税公課」
役員変更、本店移転、増資など、登記手続きで必ず発生するのが登録免許税です。これは国に納める税金の一種であるため、勘定科目は「租税公課(そぜいこうか)」を使用するのが一般的です。
「租税公課」は、国税や地方税などの「租税」と、国や公共団体へ支払う手数料や会費などの「公課」を処理するための勘定科目です。登録免許税は国税に該当するため、この科目が適しています。
司法書士への報酬は「支払手数料」
専門知識を要する登記手続きは、司法書士に依頼するケースがほとんどです。その際に支払う報酬は、専門家への業務委託の対価と考えられるため、勘定科目は「支払手数料」で処理するのが適切です。
この科目は、専門家への報酬のほか、銀行の振込手数料など、サービスに対して支払った手数料全般に用いることができます。
実務のポイント:司法書士報酬の源泉徴収を忘れずに!
司法書士へ報酬を支払う際、所得税法に基づき源泉徴収を行う義務があります。報酬額から所得税と復興特別所得税を天引きし、会社が本人に代わって国へ納付する制度です。天引きした税額は「預り金」という勘定科目で一時的に管理します。この処理を怠ると税務調査で指摘される可能性があるため、注意しましょう。
登記簿謄本の取得費用はどうする?
登記内容の確認のために登記事項証明書(登記簿謄本)を取得することがあります。この費用は少額ですが、勘定科目は会社の経理ルールに応じて複数の選択肢があります。
- 租税公課:法務局という国の機関に支払う手数料であるため、税金に準ずるものとして処理する方法。
- 支払手数料:証明書発行サービスへの対価と捉える方法。
- 雑費:発生頻度が低く、金額も小さいため、他の少額な経費と一緒に処理する方法。
どの勘定科目を選んでも税務上の問題はありませんが、会計には「一度採用した会計処理の原則及び手続は、毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない」という継続性の原則があるため、毎回処理方法を変えることは避けましょう。登録免許税と同じ「租税公課」で統一すると、管理がしやすくなります。
ケース別 設立後の登記費用と勘定科目の選び方
会社設立後に発生する代表的な登記シーンごとに、関連費用と推奨される勘定科目の組み合わせを比較します。
| 登記の具体例 | 発生する費用 | 推奨される勘定科目 | 実務上のポイント |
|---|---|---|---|
| 役員変更 (取締役の就任・辞任など) |
・登録免許税:1万円(資本金1億円以下の場合) ・司法書士報酬:3万円〜 |
租税公課、支払手数料 | 役員の任期ごとに発生する定番の登記。源泉徴収の処理を忘れないようにしましょう。 |
| 本店移転 (オフィスの引越し) |
・登録免許税:3万円(管轄内)または6万円(管轄外) ・司法書士報酬:3万円〜 |
租税公課、支払手数料 | 移転先の法務局によって登録免許税の額が変わる点に注意が必要です。 |
| 増資 (新株発行による資金調達) |
・登録免許税:増加資本金の0.7%(最低3万円) ・司法書士報酬:5万円〜 |
租税公課、支払手数料 | 登録免許税が資本金の額によって変動します。金額が大きくなることが多いです。 |
| 商号変更 (社名の変更) |
・登録免許税:3万円 ・司法書士報酬:3万円〜 |
租税公課、支払手数料 | 登記だけでなく、銀行口座や契約書など、関連する名義変更手続きも多く発生します。 |
このように、登記の種類によって登録免許税の金額は変動しますが、使用する勘定科目の基本的な考え方は共通しています。このパターンを理解しておけば、多くのケースで迷うことなく対応できるでしょう。
具体例で学ぶ!登記費用の仕訳シミュレーション
ここからは、実際のビジネスシーンで頻繁に発生するケースを基に、具体的な仕訳をシミュレーションします。理論だけでなく実践的な処理方法を学ぶことで、日々の経理業務に役立ててください。
今回は「会社設立時」と「役員変更時」の2つのケースを取り上げ、借方・貸方の入力から摘要欄の書き方まで、丁寧に解説します。
ケース1:会社設立時の仕訳例
会社設立にかかった費用は、原則として「創立費」という繰延資産で計上します。これにより、支出をすぐに費用化せず、将来にわたって償却できるため、税務戦略上も重要な処理となります。
【状況】
- 資本金500万円で株式会社を設立。
- 司法書士に設立手続きを依頼し、報酬11万円(税込)を支払った。
- 法務局への登録免許税が15万円かかった。
- 公証役場での定款認証手数料が5万円かかった。
- これらの費用はすべて会社の普通預金口座から支払った。
司法書士報酬、登録免許税、定款認証手数料は、すべて会社設立に直接必要な費用であるため、「創立費」として資産計上します。
【仕訳例】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 創立費 | 310,000円 | 普通預金 | 310,000円 | 会社設立費用(登録免許税、司法書士報酬、定款認証) |
| 普通預金 | 5,000,000円 | 資本金 | 5,000,000円 | 発起人による資本金の払込み |
【ポイント】
- 創立費の内訳:司法書士報酬110,000円 + 登録免許税150,000円 + 定款認証手数料50,000円 = 合計310,000円
- 登録免許税は税金のため、消費税はかかりません(不課税)。
- 摘要欄に「会社設立費用」などと記載することで、後から帳簿を確認した際に取引内容が分かりやすくなります。
会社設立時の費用処理は、その後の財務に影響を与えます。「この費用は資産計上すべきか、一括で経費処理すべきか」と迷った際は、税理士に相談するのが最善です。会社の状況に合わせた最適な会計処理について助言を得られます。
ケース2:役員変更登記と源泉徴収の仕訳例
次に、司法書士への報酬から源泉徴収が必要となる役員変更登記の仕訳例です。
【状況】
- 役員変更登記を司法書士に依頼。
- 登録免許税は1万円だった。
- 司法書士への報酬は55,000円(税込)だった。
- この報酬から源泉所得税(10.21%)を天引きし、残額を登録免許税と合わせて普通預金から振り込んだ。
【計算ステップ】
- 源泉所得税の計算:報酬の税抜価格(50,000円)に税率をかけます。
50,000円 × 10.21% = 5,105円 - 司法書士への支払額の計算:報酬総額から源泉所得税を差し引きます。
55,000円 - 5,105円 = 49,895円 - 振込合計額の計算:司法書士への支払額と登録免許税を合計します。
49,895円 + 10,000円 = 59,895円
【仕訳例】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 租税公課 | 10,000円 | 普通預金 | 59,895円 | 役員変更登記費用 |
| 支払手数料 | 50,000円 | 預り金 | 5,105円 | 司法書士報酬 源泉所得税 |
| 仮払消費税等 | 5,000円 |
【ポイント】
- 登録免許税(10,000円)は「租税公課」として処理します。
- 司法書士報酬は、税抜価格(50,000円)を「支払手数料」、消費税分(5,000円)を「仮払消費税等」として計上します。
- 天引きした源泉所得税(5,105円)は、会社が一時的に預かっているお金であるため、負債勘定である「預り金」で処理します。この預り金は、原則として翌月10日までに税務署へ納付する必要があります。
このように具体的な事例で仕訳の流れを理解しておけば、日常業務でも落ち着いて対応できるはずです。
登記費用の会計処理、税務で失敗しないための3つのポイント
登記費用の会計処理における小さな勘違いが、後の税務調査で指摘され、追徴課税につながるケースもあります。そうした事態を避けるため、経理担当者が必ず押さえておきたい税務上のポイントを3つ解説します。
1. 登録免許税は消費税の「対象外」と心得よう
登記費用の中でも金額が大きくなることの多い登録免許税ですが、消費税はかかりません。これは、登録免許税が国に納める「税金」であり、商品やサービスの対価ではないためです。会計上は「不課税取引」に該当し、仕訳の際に消費税を考慮する必要はありません。支払った金額をそのまま「租税公課」として計上します。
注意点:登記事項証明書(登記簿謄本)は課税対象
一方、登記簿謄本の取得費用は、法務局が提供する「情報提供サービス」への対価と見なされるため、消費税の課税対象となります。登録免許税との違いを明確に区別することが重要です。
2. 司法書士への報酬は「源泉徴収」を忘れずに
司法書士に登記手続きを依頼した場合、報酬を支払う際に会社は源泉徴収を行う義務があります。これは所得税法で定められたルールで、個人事業主である司法書士への報酬は源泉徴収の対象となります。
具体的には、1回の支払額が100万円以下の場合、税抜きの報酬額から10.21%(所得税+復興特別所得税)を天引きします。会社が天引きした税金は「預り金」として処理し、原則として支払った月の翌月10日までに国へ納付しなければなりません。この手続きを怠ると、不納付加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があるため、注意が必要です。
3. 登記簿謄本、取得方法で費用と処理が変わる?
登記事項証明書(登記簿謄本)は、法務局の窓口で取得するか、オンラインで取得するかによって手数料が異なります。
例えば、法務省の「登記情報提供サービス」を利用してオンラインで全部事項情報を取得した場合、手数料は331円です。この手数料には消費税が含まれており、「租税公課」または「支払手数料」として経費計上できます。
一方、法務局の窓口で紙の証明書を請求すると600円かかります。こちらも消費税の課税対象ですが、金額が異なるため、経費の正確性を保つためには取得方法を明確にしておくことが望ましいです。
これらの税務上のポイントを理解し、日々の業務に反映させることが、正確な経理体制の構築につながります。もし判断に迷うことがあれば、一人で抱え込まずに税理士などの専門家に相談するのが最も確実な方法です。
複雑な登記費用の処理は、専門家に相談するのが一番の近道です
登記費用の会計処理は、会社の状況や登記の種類によって判断が複雑になることがあります。特に、会社設立時や組織再編といった特別な登記を行う場合、勘定科目の選択や繰延資産の償却方法が会社の税負担に直接影響します。
もし「この処理で本当に正しいのだろうか?」と少しでも不安を感じたら、迷わず税理士や会計士といった専門家に相談することが、最も安全で確実な方法です。
専門家は、最新の税法や会計基準を常に把握しており、その知識を基にあなたの会社にとって最適な処理方法を提案してくれます。誤った処理による追徴課税のリスクを避け、節税の機会を逃さないためにも、専門家のサポートを得ることは賢明な経営判断と言えるでしょう。
経理担当者が一人で悩みを抱える必要はありません。専門家に相談することで会計処理の不安から解放され、安心して本業に集中できる環境を整えることが、健全な経営基盤の構築につながります。
登記費用の勘定科目、現場でよくあるギモンを解決!
登記費用の会計処理に関して、実務でよく寄せられる質問とその回答をQ&A形式でまとめました。
Q1. 個人事業主が開業するときの登記費用って、どう処理すればいい?
個人事業主の場合、法人と異なり「設立登記」はありませんが、事業用の不動産を購入した際などには登記が必要です。
その際にかかる登録免許税は「租税公課」、司法書士への報酬は「支払手数料」として経費計上するのが一般的です。これらの費用をまとめて「開業費」という繰延資産として計上し、任意のタイミングで費用化(任意償却)することも可能です。
Q2. 役員が登記費用を立て替えたときの仕訳は?
役員が会社の登記費用を一時的に立て替えた場合、会社は役員からお金を借りた状態になります。例えば、登録免許税を立て替えてもらった際の仕訳は、借方が「租税公課」、貸方が「役員借入金」や「未払金」となります。
後日、会社から役員へ立て替え分を支払う際に、この貸方科目を借方に計上して精算します。
Q3. 電子定款の作成費用も「創立費」でOK?
はい、問題ありません。電子定款の作成を専門家に依頼した際の手数料や、公証役場での認証費用も、会社設立に不可欠な支出です。そのため、これらも「創立費」に含めて処理します。
紙の定款で必要だった収入印紙代と同様の扱いと考え、設立登記の登録免許税などと合わせて繰延資産として計上しましょう。
登記費用の勘定科目選びや仕訳は、慣れないうちは判断に迷うことも多いでしょう。そのような時は、一人で悩まずに税理士や会計士に相談することをお勧めします。
専門家に相談して、確実な会計処理を
登記費用の会計処理は、会社の財務や税務に直接影響する重要な業務です。この記事で解説した内容を実務に活かしていただければ幸いですが、それでも判断に迷う場面は必ず出てきます。
そんな時は、経験豊富な専門家に相談するのが最も確実な方法です。税理士や会計士は、最新の税法や会計基準に精通しており、あなたの会社に最適な処理方法を提案してくれます。
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